波形解析による地震のメカニズム決定 |
この解析では,気象庁から送られる震度速報の中の速報震源(震源時,震源位置, マグニチュード)を初期情報とし,
防災科学技術研究所が整備した約70の realtime観測点
(24時間常時データが転送されている観測点)の波形データを用い,
地震のメカニズム(モーメントテンソル)を自動で決定しています。
地震発生から約10分後に到着する気象庁の電子メール到着後,約1∼2分ですべての処理が終了し,
解析結果が一定の基準を満たす場合,自動的にWEBに青文字にて追加されます。
現在,自動解析が終了後,オペレータによる解析結果のチェックを行い,解の精度の向上を図っています。
人間によるチェックは,通常,平日の午前9時半から午後5時(日本時間)の間に行われます。
さらに,手動による再解析により,解の精度向上がはかられています。
再解析結果も,自動解析結果同様,WEBに反映されます。
緑字の地震は再解析を行った地震であることを示しています。
現在のところ,1997年1月1日以降の地震については,すべて,人間による解析結果のチェックが行われています。
解析には,UC Berkeley の Douglas S. Dreger博士のプログラムを用いています。
このプログラムの特徴は,10-100秒の表面波を使うことです。これらの周期の表面波は,3成分の波形を用い,
立ち上がりを相関をとって合わせるので,実体波の解析のように人手のかかるフェイズの読みとりの必要はなく,
完全に自動化できるのです。
フィルターは,20-50秒(Mj 3.5∼5.0),20-100秒(同 5.0∼7.5),50-200秒(同 7.5以上)の3種類のフィルターを用い,
気象庁から送られてくる速報マグニチュードによって変化させています。
最初の画面(地震情報)の地震発生時刻は,気象庁から電子メールで送られてくる地震発生時刻です。
ここでは,解が信頼できる精度で求まったと予想される地震についてのみ表示しています。
基準はマグニチュードが3.5以上であり,かつ,品質(Variance Reduction)が50%以上のものです。
見たい地震の震源時間をクリックすると,「気象庁による震源情報」と
「自動メカニズム決定結果」/「手動メカニズム決定結果」という2つの表が現れます。
「気象庁による震源情報」は,気象庁から送られてくる電子メールの情報ですが,
「自動メカニズム決定結果」/「手動メカニズム決定結果」は,本解析で得られた結果です。
走向(strike)は断層の方向(北から時計まわり)で,傾斜角(dip)は断層の傾き(水平面からの傾斜角)を表し,
すべり角(rake)は,すべりの方向(水平から反時計まわり)を表しています。
走向,傾斜角,すべり角は2組あり,実際の断層面はこれらのうちのいずれか一方です。
モーメントは,一般に,断層面積x平均滑べり量x剛性率で表せる量で,地震の大きさを表します。
ここでの単位は,Nm(ニュートンメートル)です。
Mw(モーメントマグニチュード)は,モーメントから我々に馴染みのある「マグニチュード」に換算した値です。
モーメント Mo より Mw=log(Mo*107)/1.5-10.7 として求めています。
深さ5kmから125kmまでは3kmごと,200kmまでは5kmごと,300kmまでは10kmごと,
300km以深は20kmごとにおかれた点震源の解の中で品質がもっとも良いものを解として採用し,
そのときの深さを,この地震の深さとしています。
自動解析により求められた深さは大きな誤差を含んでいることが多いですが,手動の再解析により,
深さに関する精度は向上されています。現在,深さの誤差に関してはその評価法を検討中です。
品質とは,インバージョンの際のVariance Reductionのことで最大100%ですが,80%以上であるとかなり良く,
50%程度でまあまあうまく決まっていますが,20%以下の解はあまり信用できません。
Variance Reductionは,観測波形と解析結果から予想される計算波形の一致の度合を示します。
観測波形と計算波形の2乗残差を観測波形振幅で正規化した量です。
二つの表の下に解析結果が図示されています。左側には解析に使った観測点のフィルター処理後の
観測波形(実線)と,求まった解による計算波形(点線)が示されます。
右側には,求まった解のモーメントテンソルが示されます。
下半球の等積投影で,上が北を示します。黒い部分が押しの領域で,白い部分が引きの領域です。
それらの境界線のうちのいずれか一方の面が断層面ということになります。
原波形は,観測点名をクリックすることで見ることができます。解析に用いる波形は,これらのうち,
震源距離が50-1000kmの近い方から3観測点で波形のノイズが少いものです。この図の横軸は秒で,縦軸はカウント。
大雑把にいって,10^-9m/s(BH成分)または,10^-7m/s(BL成分)を掛けると地動の速度に換算できます。
また,原波形は,「データ取得」
の項を選択する事で,取得可能です。
現在,データは,TEXT, SAC, miniSEED, SEED のフォーマットで提供する事ができます。
また,メニューに従い,必要な観測点,必要な成分,それらのデータのアーカイブ形式などを選択できます。
いきなりたくさんのデータを取って見るのではなく,少し小さなデータを取得し,中身を確認した後,
必要なデータを取得される事をお勧めします。
[ご注意]
自動解析結果に関しては,解析において想定していないデータの乱れがある場合は,
全く異なった解を出す可能性があります。
求まった解を速報以外の目的で使う場合は,観測された波形を十分吟味することが必要です。
具体的には,使われている観測点の原波形を調べ,
十分にS/Nが保たれているかどうかをチェックする必要があります。
ここに紹介しているメカニズム解は,データベース化されていますので,必要なメカニズムだけ取り出す事も可能です。
その際は,
「メカニズム解の検索」 のページに行って下さい。なおデータベースは随時更新されます。
また1997,1998,1999,2000年のメカニズム解は,「防災科学技術研究所研究資料」のNo.205, No.218, No.199, No.217にそれぞれ掲載されています。
なお,この解を引用するにあたっては,
「防災科学技術研究所F-net Project による広帯域地震波形を用いたメカニズム解析結果」
を利用したことを明記していただきます。
最後に,この解析結果を利用したことによって利用者に生じた一切の不利益は,
防災科学技術研究所のF-net Projectは一切関知しないものとします。
これに関する御意見,質問等は,
FAQページ へお願いします。 |
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